発達障害の子が買い物で走り回る理由と対策|5つの指示ゲーム
株式会社フロンティアコンサルティング 代表取締役
上岡 正明 (かみおか まさあき)
大学院にてMBA(情報工学博士前期課程)取得。専門分野は社会心理、小児心理。多摩大学、成蹊大学、帝塚山大学で客員講師等を歴任。子どもの脳の発育と行動心理に基づく研究セミナーは常に人気を博している。著者に『死ぬほど読めて忘れない高速読書』(アスコム)、『脳科学者が教える コスパ最強! 勉強法』(ぶんか社)、などベストセラー多数。中国や台湾、韓国でも翻訳され累計85万部となっている。 Twitterフォロアー5万人、YouTubeチャンネル登録者23万人を超える教育系ユーチューバーでもある。
> 監修者の詳細はこちらこの記事では発達障害のお子さんが買い物で走り回る理由や対策などについて解説していきます。
「まだ留守番をさせるのは心配なので買い物に連れていくことが多い」「けれど店内を走り回ったり騒いだりすることが多くて困る」と悩んでいる方は少なくないと思います。
そこで本記事では、発達障害のお子さんが店内を走り回る理由、その対策方法、対策の一環でありお子さんの療育にも役立つ「指示ゲーム」などに関してお伝えしていきます。
発達障害のお子さんが買い物で走り回る2つの理由
まずは発達障害のお子さんがスーパーなどでの買い物で走り回ってしまう原因を2つ挙げます。難しく考えてしまうかもしれませんが、シンプルな理由である場合が多いです。
1:興味を惹くものがたくさんあるから
発達障害のお子さんは好奇心が強く、「あれを見たい」「これを触りたい」という衝動を抑えにくい傾向にあります。そのため特に買い物に慣れていない場合は、さまざまなものに飛びついたり触ったりしてしまう可能性が高いです。
2:暇だから
お子さんがスーパーなどでの買い物に慣れたり成長したりして、走り回ることが少なくなってきても、「すること」がなく暇だと、やはり何かに飛びついたり触ったりしてしまう場合があります。
発達障害のお子さんのいる家庭では「買い物による日常生活への負担」を減らすために、買い物の回数を少なくして(買い溜めをして)いるケースも多いと思います。
そうなると一回での買い物が多くなりますし、一度の外出でさまざまな店を回るでしょうから、発達障害であってもなくてもお子さんにとっては辛くなってきます。
発達障害のお子さんが買い物で走り回ることを防ぐための2つのポイント
それでは発達障害のお子さんが買い物で走り回ることを減らすためのポイントをいくつか挙げていきます。
1:そもそも買い物に連れていかない
当たり前ですが買い物に連れていかないという選択肢もあります。お子さんが家で安全に留守番できるのであれば選択肢に入れるべきですし、そうでなくてもお子さんが保育園・学校などに行っている間に買い物を済ませるのもいいでしょう。
「子どもにいろいろなことを体験させたい」という気持ちもあると思いますが、お子さんを買い物に連れていくことが親にとって大きな負担になりそうなのであれば、無理をする必要はありません。
親の心身の状態が安定していてこそ、お子さんをサポートできるということを忘れないようにしましょう。
2:お子さんに指示をして買い物を手伝わせる(指示ゲーム)
「ニンジンを取ってね」「卵のパックを2つ取ってね」などとお子さんに指示をして買い物を手伝わせるという方法もおすすめです。これによりお子さんに仕事が発生し、「他の何かに興味を持つこと」と「暇であること」が解消するため、走り回ることが少なくなります。
お子さんにとって「やや難しいけれどできること」を指示するのがコツです。この指示ゲームについては他にもさまざまなポイントがありますので、さらに解説していきますね。
発達障害のお子さんの買い物指示ゲームのポイント5つ|目的別
それでは発達障害のお子さんと買い物をする際の指示ゲームのポイントを目的別に解説していきます。買い物時に余裕があれば、以下のことを意識するとよりお子さんの療育につながりやすくなります。
1:個数を指定して「数の感覚」を鍛える|数に興味を持ち始めた時期
子どもの成長過程では「まだ明確な数的感覚はないものの数に興味を持ち始める時期」があるものです。そういった段階では、買い物において買う物の個数を指定して「数の感覚」を鍛えることをおすすめします。例えば以下の通りです。
- ニンジンを2本取ってね
- 卵のパックを3つ取ってね
- 大きなタマネギを4個選んでね
指示をする際に個数分の指を立てると、お子さんにとってさらにわかりやすくなります。もちろん慣れてきたら指を立てずに指示をするのもいいでしょう。
2:量感(数と量の感覚)を鍛える
量感とは「この中で一番多い(少ない)のはこれ」「これとこれを比べると大きいのはこれ」「両者を比較して少ないのはこちら」など、具体的な計量をせずに「量」を捉える感覚のことです。この量感を鍛えるためには以下のような指示をおすすめします。
- 一番大きいタマネギを選んでね
- 小さなミカンは避けて5つ選んでね
- 中くらいのサイズのお肉のパックを選んでね
大人でも厳密に「一番大きいタマネギ」などを選ぶのは難しいですから、お子さんの選択をおおらかに受け入れましょう。お子さんの選んだ商品を交換したい場合は、本人に見えないように行えば問題ありません(こういったしたたかさも大事です)。
3:記憶力や注意力を鍛える
記憶を引き出す力や注意力を鍛えたい場合は以下のような指示をおすすめします。お子さんの成長度合いや特性によって指示の難易度を変えましょう。
- いつも買っているジュースを持ってきてね
- まだ卵って残ってたかな。なければ2パック持ってきてね
- ふりかけを1週間分持ってきてね(どれくらい必要か考えさせる)
これらに関しても大人でも正確に判断するのは困難ですから、大まかに受け入れてください。また「わからない!」と言ってきた場合は、「これこれ、これだよ!」と明るく答えたり、「ふりかけは多めに買っておけばいいよね」と合理的な回答を示したりしましょう。
4:上下左右や方向の感覚などを鍛える(空間認知能力)
買い物で発達障害のお子さんの上下左右の感覚や方向感覚など、つまり空間認知能力を鍛えることができます。具体的には以下のような指示をおすすめします。
- 上から2番目の、左から4番目のドレッシングを取ってくれる?
- ちょうど真ん中にあるキャベツを取ってね
- 真っ直ぐ歩いて、2番目のカドのところにあるレトルトカレーを取ってきてね
特に3番目についてですが、スーパーなどのお店の中でも迷うお子さんはいますので注意してください(心配であれば後ろからついていく)。
5:話を聞く能力を鍛える(難易度は高いです)
以下のような指示をすることで話を聞く能力を鍛えることができます。お子さんの成長度合いや特性によって指示の難易度を変えましょう。
- 安売りシールがついたひき肉のパックを合計600グラムくらいになるように取ってきて
- タマネギ2個、ニンジン2本、ジャガイモ1個を取ってきてね
- 牛乳と麦茶を2本ずつ、コロッケを4個、鶏むね肉300グラムのパックを4つお願いね
大人でも3つ目の指示をすぐに完璧に理解することは難しいと思います。ただ、発達障害のお子さんの特性によってはむしろ「長い指示を聞くことが得意」という可能性もありますので、高いポテンシャルがありそうなのであれば挑戦してみるのもいいでしょう。
まとめ
発達障害のお子さんが店の中を走り回るときの原因の多くは「興味を惹くものが多すぎるから」もしくは「暇だから」です。そのため指示ゲームなどによって、お子さんの興味の方向性を一時的に固定しつつ、暇をなくすことがポイントといえます。
ただ、そもそも買い物に連れていかないという選択肢も常に残しておきましょう。お子さんにさまざまな経験やトレーニングをさせることも重要ですが、親の心身が安定していることも同じかそれ以上に大切です。