発達障害の子がいる家庭でペットを飼うメリット・デメリット・注意点
株式会社フロンティアコンサルティング 代表取締役
上岡 正明 (かみおか まさあき)
大学院にてMBA(情報工学博士前期課程)取得。専門分野は社会心理、小児心理。多摩大学、成蹊大学、帝塚山大学で客員講師等を歴任。子どもの脳の発育と行動心理に基づく研究セミナーは常に人気を博している。著者に『死ぬほど読めて忘れない高速読書』(アスコム)、『脳科学者が教える コスパ最強! 勉強法』(ぶんか社)、などベストセラー多数。中国や台湾、韓国でも翻訳され累計85万部となっている。 Twitterフォロアー5万人、YouTubeチャンネル登録者23万人を超える教育系ユーチューバーでもある。
> 監修者の詳細はこちらこの記事では発達障害のお子さんがいる家庭でペットを飼うことについて解説していきます。
「ペットを飼うことは教育にも良さそう」「けれど子どもが発達障害であることを考えると簡単ではなさそう」と迷っている方は少なくないと思います。
そこで本記事では、発達障害のお子さんがいる家庭でペットを飼うことのメリットや、デメリット・注意点など、さらに「飼わずに生き物と関わる方法」などに関してお伝えしていきます。
発達障害のお子さんがペットを飼うメリット7つ
それでは発達障害のお子さんがペットを飼うことの主なメリットを挙げていきます。
1:相手の気持ちを考える練習になる
発達障害のお子さんの中には相手の気持ちを考えることが苦手な人が少なくありません。ですがペットという「喋らない存在」の世話をすることで、相手の気持ちを考える練習を積むことができます。
2:感覚過敏が和らぐ可能性も
発達障害のお子さんの中には感覚過敏で、特定の感触が嫌いな人も多いです。
しかし、ペットを撫でる、舐められるなどのことにより和らいでいくケースが少なくありません。またニオイを苦手とする発達障害の子も多いですが、トイレの世話などを通じて慣れていける場合もあります。
3:自分の役割ができるため責任感が芽生える
発達障害であってもなくても特に小さいうちは、現実として「ほとんどすべてのことを親がする」という状態になるため、なかなか責任感が芽生えなくてもおかしくありません。
しかしペットを飼うことでお子さんにも役割ができれば、徐々に責任感が芽生えていき、日常生活や学校生活においても無責任な行動が減っていく可能性が高いです。
4:「ペットに対して教えること」でもコミュニケーション力が身につく
子どもは基本的に「何かを教えられる立場」であるため、「これはこうするんだよ」と自分が教えることに慣れていない人も少なくありません。
ですがペットに対して「これはしていい」「これはしてはダメ」などと教えることを通じて、「教える能力」が上がるかもしれません。すると対人コミュニケーションにも柔軟性が生まれやすくなります。
また、想像力が豊かなお子さんであれば「親や先生が自分に何かを教えるのも大変なこと」「だから言うことを聞こう」という学びを得てくれる可能性があります。
5:合わせる、妥協するなど「他者と生きる上での微妙な行動」の練習にもなる
ペットを飼う以上はどうしても、ペットに合わせたり妥協したりするなどの「微妙な行動・選択」が増えていきます。例えば以下の通りです。
- 散歩させたいタイミングで動いてくれないのでしばらく様子を見る
- 普段よりもエサを食べる量がやや少ないが、連日ではないため気にしないようにする
- エサやりを忘れかけたが、「稀なミス」ではあるので自分を責めすぎない
発達障害のお子さんの中には「何でもルールや自分のこだわり通りにならないと気が済まない」という傾向にある人もいます。しかしペットの飼育を通じて、徐々に「妥協すること」「重大なことでなければ何となくやり過ごすこと」なども身に付けていけることでしょう。
6:散歩で外遊びや他人とのコミュニケーションが増える
犬など散歩が必要なペットの場合、それによって外遊びや近所の方々などとのコミュニケーションが増えます。また、犬のことが会話のネタになって友達が増えたり、友達が家に遊びに来たりすることもあるでしょう。
また、散歩においてもペットは完全に思い通りにコントロールできるわけではありませんから、我慢する力、判断力、他者(この場合はペット)の気持ちを推し測る能力などを鍛えることもできます。
7:自然と性教育ができる場合も
ペットの避妊手術や去勢手術などを通じて、自然とお子さんの性教育ができるケースもあります(性教育であると伝えない形での性教育)。
ただしデリケートな話題ではあるので、お子さんの成長度合いや性格によって、例えば「身体のために赤ちゃんができないようにするんだよ」と伝えるか、「避妊手術をして望まない妊娠をしないようにするんだよ」と伝えるかを決めましょう。
発達障害のお子さんがいる家庭でペットを飼う注意点・デメリット8つ
続いては発達障害のお子さんがいるお家でペットを飼うことの注意点やデメリットについて解説していきます。
ペットの飼育は「どうしても必要なこと」ではありません。注意点やデメリットを踏まえつつ、場合によっては「飼育しない」「子どもがもう少し成長してから飼育する」などの選択も視野に入れましょう。
1:ペットを飼うためにはお金がかかる
発達障害のお子さんがいる家庭では、生活するにあたってお金がかかる傾向にあります。例えば通院代・薬代、お子さんをカバーするための道具の購入費、失くしたものを再購入する費用などです。
そしてペットを飼うとなると、エサ代をはじめとするお世話代、ワクチン代、医療費などが発生し、犬の場合は平均で年間約36万円、猫の場合で年間16万円ほどのコストがかかります。
2:ペットに対する熱意が続かない可能性もある
発達障害のお子さんの中には熱しやすく冷めやすい性格の人が少なくありません。そのため「ペットを飼いたい!」とせがまれて飼育を始めても、すぐに飽きてしまう可能性があります。
それでもペットを飼う責任などを教えれば熱意を取り戻すかもしれませんが、「ペットを飼う楽しさ」自体は知ってしまったせいで、他のペットに目移りするケースもあります。
3:長期計画を立てることが苦手でありペットに影響する場合も
発達障害の場合、長期計画を立てることを苦手とする傾向にあります。ペットによっては数十年長生きする種類もおり、例えば中学生で飼い始めれば、大学進学、就職活動などの大変な時期と、ペットが高齢になってお世話の難易度が高くなる時期が重なるかもしれません。
もちろんペットを飼い始める時期は保護者の方などとも相談するでしょうから、お子さんの独断で決めることはまずないはずです。ただ、親としても「子どもの熱意に負けて、長期目線で考えることなく飼い始めてしまう」ということのないようにしましょう。
デリケートな話題ではありますが、このリスクを回避したいのであれば比較的寿命の短いペットを選ぶことも選択肢に入れることをおすすめします。
4:世話を先延ばしにする・忘れる恐れがある
発達障害のお子さんの中には、作業を先延ばしにする傾向にある人が少なくありません。「後でやろう」と考えてそのまま忘れてしまうこともあり得ます。
また、ワクチン接種や健康診断なども忘れて病気にさせる可能性もあるため、親などのサポートも重要と言えます。
5:睡眠障害が悪化する可能性もある
発達障害の方の50%以上、見解によっては80%以上が程度はどうあれ睡眠障害を抱えていると言われています。猫やハムスターなどの夜行性のペットを飼うと、深夜に動き回る物音や鳴き声などで目が覚めて、さらに眠りのことで苦しむようになるかもしれません。
また、カブトムシなどの昆虫を飼う場合も、動くときの「ガサゴソ」という音が気になって睡眠に影響する恐れがあります。
6:集中力が落ちやすく作業などに影響する場合も
ペットを家の中で自由にさせている場合、宿題中などに構ってきて集中力が落ちるかもしれません。
発達障害のお子さんの中には集中力が低い人が多いです。特にこれまで「静かな場所で勉強することを心がけていた」「何もない空間で宿題をするようにしていた」という場合、ペットを飼い始めて環境が大きく変わることで、全く集中できなくなる恐れもあります。
7:室内の整理整頓や掃除に関して難しさが出る恐れも
犬や猫などを室内で動き回らせる場合は、誤飲事故などを防ぐために日頃から丁寧に整理整頓や掃除をする必要があります。
本来、整理整頓や掃除は「絶対にしなければならないもの」とも言い切れませんが、ペットを飼い始めることで「必須作業」となりお子さんがストレスを溜めることになるかもしれません。
8:後から精神的に辛くなってくる可能性もある
ペットを飼い始めた頃は問題なくても、後から精神的に辛くなってきてお世話をしたくなくなる可能性もあります。特にペットを飼うことに慣れてきて二頭、三頭と増やすと、どこかで急に限界が訪れてもおかしくありません。
また、発達障害の方が一人暮らしを始めるとそれだけでもキャパシティーオーバーになりやすいため、例えば「進学で一人暮らしを開始するにあたってペットも連れていく」という場合は注意が必要です。
「飼わずに生き物と関わらせる」という選択肢もあります
ここまでの解説をお読みになって家庭でペットを飼うことが不安になった方は、「飼わずに生き物と関わる」ということも選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。例えば以下の通りです。
- お子さんを連れて犬カフェ、猫カフェに行く
- ペットを飼っている親戚の家にたびたび遊びに行く
- YouTubeなどで動物の動画を観せる
これらによっても少なからず生き物と触れ合って、お子さんに良い影響を与えられるかもしれません。ただし徐々に生き物への興味が強くなり「飼いたい!」と言ってくる可能性もありますから、その際は妥協せずに対応しましょう(飼わないならしっかりと拒否する)。
まとめ
発達障害のお子さんがペットを飼うことには様々なメリットが期待できますが、うまくいかない場合のリスクも小さくはありません。
そのためもし飼うのであれば、「どれくらいの寿命のペットを飼うか」「犬など意思表示がわかりやすいペットにするか」なども慎重に検討した上でペットを選びましょう。