発達障害グレーゾーンの「特徴、相談先・支援機関」
株式会社フロンティアコンサルティング 代表取締役
上岡 正明 (かみおか まさあき)
大学院にてMBA(情報工学博士前期課程)取得。専門分野は社会心理、小児心理。多摩大学、成蹊大学、帝塚山大学で客員講師等を歴任。子どもの脳の発育と行動心理に基づく研究セミナーは常に人気を博している。著者に『死ぬほど読めて忘れない高速読書』(アスコム)、『脳科学者が教える コスパ最強! 勉強法』(ぶんか社)、などベストセラー多数。中国や台湾、韓国でも翻訳され累計85万部となっている。 Twitterフォロアー5万人、YouTubeチャンネル登録者23万人を超える教育系ユーチューバーでもある。
> 監修者の詳細はこちらこの記事では、発達障害のグレーゾーンに関する基礎知識とともに世代別でみられる特徴や困りごと、相談先や支援先などを紹介します。
発達障害のグレーゾーンとは、「発達障害の傾向が見られるものの、医療機関の診断において基準に満たない状態」を差す通称であり、医学的な診断名ではありません。
発達障害のグレーゾーンがある人の特徴として、「人間関係が苦手」「授業や仕事に集中できない」「勉強に遅れがある」などが挙げられます。そのため、周囲の理解やサポートが必要です。
発達障害のグレーゾーンについて悩み・課題を持つ方は、参考にしてください。
発達障害のグレーゾーンとは
発達障害のグレーゾーンとは、「発達障害の傾向が見られるが、医療機関の診断基準に満たない状態」を差す通称です。
グレーゾーンの方は、「発達障害」と診断を受けた方に比べると日常生活に支障はないと思われがちですが、「相談先がない」「支援を受ける先がない」等の問題を抱えていることが多いです。
- 発達障害とは
- 発達障害の主な分類
- グレーゾーン=症状が軽いとは限らない
発達障害とは
発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達に関する障害で、学習・言語・行動などに何らかの偏りが出る状態です。
行動や情緒の面で特徴があるため、日常生活や人間関係において問題が生じることがあります。
その一方で、知的には遅れがなく、優れた能力を発揮する場合もあり、周りからはそのアンバランスさが理解されにくい障害です。
発達障害の主な分類
発達障害にはいくつかの分類があり、複数の特徴がある方もいます。主な分類には、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などがあります。
注意欠如・多動症(ADHD)
集中できない(不注意)、じっとしていられない(多動性)、衝動的に行動してしまう(衝動性)などの特徴を持つ発達障害です。
日常生活では、忘れ物やミスが多い、授業中に落ち着いて座っていられない、きれやすく乱暴をしてしまう、などの問題行動に繋がります。何らかの脳機能の偏りや、遺伝的要因や環境要因などさまざまな要因が考えられます。
自閉スペクトラム症(ASD)
社会的コミュニケーションの困難、人・空間・特定の行動への強いこだわりなど、多種多様な特徴が見られる発達障害の一つです。自閉スペクトラム症の方のうち、約半数は知的障害も伴っているといわれています。
知的障害を伴わない自閉スペクトラム症の一種にアスペルガー症候群があり、周囲との交流が困難、特定の分野への興味・関心が強い等の特徴があります。
学習障害(LD)
全体的な知的発達に遅れはないものの、話す、聞く、読む、書く、計算する、推測する等のいずれかの能力に困難を生じる状態です。勉強はできるが計算だけはできない、会話はできるが文字は読めない、などの症状があります。
原因は、脳の機能異常以外にも、目や耳が悪いなどの環境要因も考えられます。健常児とは異なる学習アプローチが必要です。
グレーゾーン=症状が軽いとは限らない
発達障害のグレーゾーンとされる方が、症状が軽いとはかぎりません。医療機関による複数の診断基準を満たしていないだけであって、発達障害の人が持っている特性の一部がより強く出ている場合もあります。
忘れ物が多い、授業に集中できない、整理整頓ができない、周りに合わせた行動ができない、などの日常生活での問題が起きていても、適切な支援先がないことも課題です。
発達障害の診断でグレーゾーンとされる理由
発達障害ではないかと思っていて診断を受けても、複数ある診断基準を満たさずにグレーゾーンとされる場合があります。発達障害の診断でグレーゾーンとされる理由には、どのようなものがあるのでしょうか?
- 診断日の体調によって症状のブレがあるため
- 発達障害の診断基準を満たしているかは医師の主観で判断されるため
- 発達障害の診断基準に含まれる「幼少期の症状」が曖昧であるケース
診断日の体調によって症状のブレがあるため
グレーゾーンの人は、その日の体調によって、症状がブレやすい傾向にあります。診断基準を満たすかどうかのギリギリのラインにいるため、たまたま調子が良い日に診断を受けると、発達障害に繋がる目立った症状が見受けられない可能性もあります。
その場合、医師も発達障害の診断を下すことができません。
発達障害の診断基準を満たしているかは医師の主観で判断されるため
発達障害は診断基準こそありますが、その判断をするのは医師の主観によるところが大きいです。
ある医師のところでは「発達障害である」と診断されても、別の医師のところでは「発達障害ではない」と診断されるケースがあるのはこのためです。特にグレーゾーンの方は、医師の主観により診断が変わりやすいと言えます。
発達障害の診断基準に含まれる「幼少期の症状」が曖昧であるケース
発達障害の診断基準には、「幼少期からそのような症状が存在していたか」という要素も含まれます。
そのため、幼少期からの記憶があいまいで症状の有無を答えられない場合、たとえ現在の自分に発達障害の症状があったとしても、医師が「発達障害である」と診断できない可能性があります。
発達障害グレーゾーンの子供の特徴
発達障害のグレーゾーンとされる子供には、一体どのような特徴があるのでしょうか?子どもの発達によって、症状も変わっていきます。保育園・幼稚園から中高生まで、年齢別の特徴を見ていきましょう。
- 発達障害グレーゾーンの保育園・幼稚園(2〜5歳)の特徴
- 発達障害グレーゾーンの小学生の特徴
- 発達障害グレーゾーンの中学生・高校生の特徴
発達障害グレーゾーンの保育園・幼稚園(2〜5歳)の特徴
発達障害グレーゾーンの保育園・幼稚園(2〜5歳)の主な特徴は以下の通りです。
- 集団行動に加わらない
- 嫌なことがあると手が出たり、急に走り出すなど、衝動的に行動する
- 話しかけても、声掛けを聞いていないように見える
- 多動性でどこに行くか分からない
保育園・幼稚園は子どもにとって、はじめての集団生活を学ぶ場です。発達障害の子は早くも、この集団生活において問題が生じる事が多いようです。
発達障害グレーゾーンの小学生の特徴
発達障害グレーゾーンの小学生の主な特徴は以下の通りです。
- 遅刻や忘れ物が多い
- 特定のモノや知識に対する偏ったこだわりをもつ
- 授業中にじっとしていることができない
- ルールを守るのが苦手
- 文字の読み書き、計算などが苦手
小学生だと、多動性の子は、授業中にどうしても大人しく座っていられません。依然として集団生活や人間関係は苦手な子が多いようです。
発達障害グレーゾーンの中学生・高校生の特徴
発達障害グレーゾーンの中学生・高校生の主な特徴は以下の通りです。
- 人間関係のコミュニケーションがうまくいかない
- 自分の興味・関心のある分野にしか、集中ができない
- 計画性を持ち、物事を進めるのが苦手
- 学習の遅れや偏りが目立つ
人間関係を苦手とする一方で、好きな分野はとことん極めるので、専門的な天才性を発揮する子もいるようです。
発達障害グレーゾーンの大人に見られる仕事上の傾向・特徴
発達障害グレーゾーンの大人に見られる仕事上の傾向・特徴は以下の通りです。
- 職場の人と上手くコミュニケーションをとれない
- 変化に対応できず、些細な変化にも大きな抵抗を感じる
- 共同作業が難しい
- うっかりミスが多い
- 興味・関心のあることにはのめり込みやすい
大人の発達障害では、子どもの時と比べて多動性は目立たなくなりますが、代わりに不注意が大きな問題になりがちです。良い面では、マイペースにコツコツと努力し、好きな分野を突き進む方がいらっしゃいます。
悪い面では、社会性に欠けるため、対人関係で問題を起こし、転職を余儀なくされる方もいます。
発達障害グレーゾーンの場合、障害者手帳はもらえない
発達障害の診断を受けた方の場合、「精神障害者保健福祉手帳」の取得対象になります。手帳を取得することで、さまざまな福祉やサービスを受けることができます。
一方、発達障害グレーゾーンの場合、医療機関による確定診断はないため、障害者手帳はもらえません。
グレーゾーンの方は、「発達障害」として手帳を取得することはできませんが、「診断基準を満たしていない」だけであって、実際には発達障害の特性を持っていることが多いです。
そのため、社会の中でその症状を理解していただけないことで、生きづらさを抱えることもあり、鬱病などの二次障害を併発することがあります。
発達障害グレーゾーンの人が正確な診断を受けるには
医療機関による複数の基準を満たし、発達障害の確定診断をされるのが難しいグレーゾーン。では、どのようにすれば、発達障害グレーゾーンの人が正確な診断を受けられるのでしょうか。
- 数字やデータなど客観的な証拠に基づいた診断を受ける
- 現在の症状や困りごとなど正確な情報を医師に伝える
- 複数の医療機関で診断してセカンドオピニオンを求める
数字やデータなど客観的な証拠に基づいた診断を受ける
発達障害の診断は、医師の主観が反映されやすいため、人によっては診断が異なる場合があります。そのため、数字やデータなどで、客観的な証拠に基づいた診断を受けることが大切です。
客観的な指標検査には、QEEG検査と知能検査(WAIS-IV、WISC-IV)があります。QEEG検査では脳波検査を詳細に解析します。知能検査では、総合的な知的能力を測ることができます。
現在の症状や困りごとなど正確な情報を医師に伝える
正確な診断のためには、正確な情報を医師に伝える必要があります。現在の症状、困りごとなどを詳細に伝えられるよう、診察を受ける前にあらかじめメモを作っておくと良いでしょう。
また、自分の普段の様子を知る家族などに付き添ってもらい、第三者からの視点を説明してもらう方法もあります。幼少期の症状を正確に伝えるためには、母子手帳や通知表などの資料を準備することもおすすめです。
複数の医療機関で診断してセカンドオピニオンを求める
発達障害は医師の主観により診断される可能性が高いため、より正確な診断のためには、セカンドオピニオンを求める必要があります。複数の医療機関を受診し、診断を受けることで、より正確な診断結果を得られます。
また、体調による症状のブレを減らすため、別日にもう一度、別の医療機関で診断を受けるという方法もあります。
発達障害グレーゾーンの子供に関する相談先・支援機関
発達障害グレーゾーンの子供をもつ保護者の方で、適切な相談先や支援機関が分からないという方もいると思います。そこで、発達障害グレーゾーンの子供の相談先・支援機関をご紹介していきます。
- 児童発達支援センター
- 発達障害者支援センター
- 市町村保健センター
- 子育て支援センター
児童発達支援センター
児童発達支援センターとは、児童福祉法第43条で定められた児童福祉施設です。障害のある子どもが通い、日常の基本動作や集団生活のスキルを学びます。
身近な地域での通所支援機能として存在し、障害のある本人だけでなく、家族のための相談や療育など、総合的な支援を行っています。
お住まいの市区町村へのお問い合わせが必要です。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターでは、発達障害の早期発見・早期支援を目的としています。発達障害に関する全般的な相談が可能です。
診断がないグレーゾーンの方でも、家族や関係者に発達障害の可能性がある、という場合でも相談することができます。保健・医療・教育・福祉などの関係機関と連携し、地域における総合的な支援ネットワークを構築しています。
市町村保健センター
市町村保健センターとは、地域保健法第4章18条で定められ、多くの市町村に設置された施設です。住民に対し、健康相談、保険指導および健康診査など、地域保健に関する必要な事業を行います。
保健所が行政機関、専門機関としての色合いが強いのに対し、市町村保健センターは、地域における健康づくりの場、という色合いが強い施設です。
子育て支援センター
市区町村ごとに、公共施設や保育所、児童館などの身近な場所で、地域子育て支援拠点として存在しています。主に乳幼児の子供と、子供を持つ親同士が交流を深め、情報交換や育児相談ができる場です。
地域子育て支援拠点事業の一つとして位置づけられており、令和4年度で7970箇所の拠点があります。
地域子育て支援拠点事業について|こども家庭庁 (cfa.go.jp)
発達障害グレーゾーンの大人に関する仕事の探し方・相談先
発達障害グレーゾーンの大人でも、仕事を探す際に就職支援のサービスを受けることが出来ます。発達障害の特徴について理解をしつつ、就職支援をしてくれる相談先をご紹介しましょう。
- 発達障害者支援センター
- ハローワーク(公共職業安定所)
- 障害者就業・生活支援センター
- 就労移行支援事業所
発達障害者支援センター
発達障害のある方への総合的な支援を行っています。就労を希望する発達障害の方の相談に乗ると同時に、公共職業安定所、地域障害者職業センター、障害者就業、生活支援センターなどの労働関係機関と連携して情報提供を行います。
必要に応じて、障害特性や就業適性に関する助言も行います。発達障害の診断がなくても、相談を行っていますので、お気軽に問い合わせください。
発達障害者支援センターとは | 国立障害者リハビリテーションセンター (rehab.go.jp)
ハローワーク(公共職業安定所)
国(厚生労働省)が運営する総合的雇用サービス機関です。発達障害の方に対しては、専門知識のあるスタッフが、一人ひとりの障害特性に応じたきめ細やかな職業相談を行っています。
福祉・教育等関係機関と連携したチーム支援により、就職の準備段階から職業の安定までの一貫した支援を実施しています。全国的に設置されているので、お近くの相談先が見つかります。
公共職業安定所(ハローワーク) - 発達障害情報のポータルサイト (hattatsu.go.jp)
障害者就業・生活支援センター
障害のある方の職業生活における自立を図るため、雇用、保健、福祉、教育等の関係機関と連携し、身近な地域での生活・仕事に関する支援を行っています。障害者の雇用の促進や安定を図ることを主な目的として、全国に設置されています。
発達障害の診断や障害者手帳がなくても、相談自体は行えますので、お気軽にお問い合わせ下さい。
障害者就業・生活支援センターについて|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
就労移行支援事業所
就労移行支援は、「障害者総合支援法」に基づく就労支援サービスです。一般企業への就労を目指す障害者が、働くための知識や能力を身につけるために利用できます。発達障害専門の就労移行支援事業所も存在します。
発達障害への理解が深く、特性に合わせた訓練内容が用意されています。医師の意見書があれば、グレーゾーンの方でも就労支援事業所を利用することができます。
【全国】就労移行支援事業所の一覧 | LITALICO仕事ナビ (snabi.jp)
【Q&A】発達障害のグレーゾーンについて多い質問
以下では、発達障害のグレーゾーンについて多い質問・疑問に回答します。
- 発達障害グレーゾーンの人の特徴はどんな感じ?
- 発達障害グレーゾーンの子供は特別児童扶養手当をもらえる?
- 発達障害のグレーゾーンでも医療保険や生命保険に加入できる?
Q. 発達障害グレーゾーンの人の特徴はどんな感じ?
グレーゾーンは発達障害の傾向のある全ての人を指すので、症状はかなり幅広いです。
主な症状は以下の通りです。
- 学校や職場などでの対人コミュニケーションが苦手
- 言い争いやケンカなどのトラブルが起きやすい
- 文章の読み書き、計算が苦手
- ミスや忘れ物などの不注意が目立つ
- 多動性でじっと座っていることができない
- 特定の興味・関心のあるものに強いこだわりを持つ
Q. 発達障害グレーゾーンの子供は特別児童扶養手当をもらえる?
特定児童扶養手当とは、20歳未満で精神又は身体に障害を有する児童を育てている家庭の保護者に、国から定期的に養育のための資金を支給する制度です。
重度の障害がある児童が優先されるため、子供の障害の程度が軽度だと、支給してもらえないこともあります。発達障害グレーゾーンの子供は、障害の診断を受けておらず、特別児童扶養手当をもらえない可能性が高いです。
Q. 発達障害のグレーゾーンでも医療保険や生命保険に加入できる?
発達障害グレーゾーンでも、医療保険や生命保険に入ることはできます。ただし、保険は加入する前に、通院や服薬状況を告知する告知義務があります。そのため、加入できる保険は限られる可能性があります。
しかし、障害のある方向けの保険もあります。発達障害の人専用の保険としては、ぜんち共済の「ぜんちのあんしん保険」があります。また、保険以外に、国の公的医療保険制度もあります。
発達障害のグレーゾーンについておさらい
発達障害のグレーゾーンとは、「発達障害の傾向が見られるものの、医療機関の診断において基準に満たない状態」を差す通称です。基準を満たしていないだけで、発達障害の特性の一部をより強く持っている可能性もあります。
特徴として、「コミュニケーションが苦手」「授業や仕事に集中できない」「多動性」などが挙げられます。そのため、周囲の理解やサポートが重要です。