発達障害のお子さんが運動会に参加しやすくなる工夫
株式会社フロンティアコンサルティング 代表取締役
上岡 正明 (かみおか まさあき)
大学院にてMBA(情報工学博士前期課程)取得。専門分野は社会心理、小児心理。多摩大学、成蹊大学、帝塚山大学で客員講師等を歴任。子どもの脳の発育と行動心理に基づく研究セミナーは常に人気を博している。著者に『死ぬほど読めて忘れない高速読書』(アスコム)、『脳科学者が教える コスパ最強! 勉強法』(ぶんか社)、などベストセラー多数。中国や台湾、韓国でも翻訳され累計85万部となっている。 Twitterフォロアー5万人、YouTubeチャンネル登録者23万人を超える教育系ユーチューバーでもある。
> 監修者の詳細はこちらこの記事では発達障害のお子さんが運動会に参加しやすくするためのポイントについて解説していきます。
「子どもを運動会に参加させるのが怖い、本人も嫌がっている」「運動会シーズンになると、毎日練習で心身共に疲れ切っている」と悩んでいる親は多いと思います。
そこで本記事では発達障害のお子さんが運動会を苦手としやすい理由や、無理なく運動会に参加させるための方法などについてお伝えしていきますので、ぜひ参考にしてください。
発達障害のお子さんが運動会で苦手としやすい6つの要素
発達障害のお子さんの中には運動会(練習含む)を苦手としている人が少なくありません。まずは具体的にどのような要素を苦手と感じやすいのか解説していきますので、お子さんをフォローするための参考にしてください。
1:イレギュラーな日が続くこと
発達障害のお子さんの中には「イレギュラー(いつもと違うこと)」を苦手としている人も多いです。運動会(練習含む)はそのイレギュラーの代表格ですから苦手になってもおかしくありません。
運動会もその練習もイレギュラーですが、運動会の影響で時間割や持ち物が変更になる場合も多く、そのせいで混乱する可能性も高いです。
また、運動会当日が近づくにつれて他のクラスメイトや先生方のテンションが変わり、それによってストレスを感じる場合もあります。
2:体力的な問題と体温調節
発達障害の方はエネルギーの消費が激しく、疲れやすい傾向にあります。その上で運動会の練習をするとなれば、毎日ヘトヘトになって帰宅してもおかしくありません。また、疲れた状態で授業を受ければイライラが募り、苦しい状態になる可能性もあります。
そして、発達障害のお子さんの中には体温調節を苦手としている人も少なくありません。それにもかかわらず「残暑の中で練習して、その直後に教室で勉強をする」という日々が続くと、体調を崩してしまう恐れもあります。
3:身体接触の多さ
発達障害のお子さんの中には触覚過敏である人も少なくありません。お子さんとスキンシップするにあたって気を遣っている保護者の方も多いと思います。
そして運動会には組体操などの身体接触をする種目もあるため、それを苦手に感じて、運動会全体へのモチベーションを下げてしまうこともあります。
家庭でのスキンシップについては親が気を遣いますが、クラスメイトにそれを求めるのは難しいです。クラスメイトが気を遣ってくれるとしても、複数人が入り乱れる状況では限界があります。
4:ピストルなど音が怖い・驚く
聴覚過敏で、ピストル、BGM、応援などの音を怖がったり驚いてしまったりするお子さんもいます。
5:身体の使い方が不器用でクラスの足を引っ張る(ことを気に病む)
発達障害のお子さんの中には「身体の使い方」が不器用な人も多いです。「身体を動かすこと」そのものはできても、「自分のイメージ通り・言われた通りに身体を動かすことが苦手」というイメージです。
これによりクラスの足を引っ張ってしまうことを気に病む子どもも少なくありません(発達障害のお子さんに限らないことですが)。
6:負けず嫌いからくるもの
発達障害の方の中には「過剰な負けず嫌い」の人も多く、負ける(負けそうになる)とかんしゃくを起こしたり、勝つことに意識が集中しすぎて協調性を欠いたりすることがあります。
運動会の競技には勝敗がつくものも多いですが、すべてのクラスメイトが自分のように勝ち負けにこだわるわけではないため、そこでフラストレーションを溜めてしまう場合もあります。
発達障害のお子さんが運動会を楽しめるようにするための方法5つ
それでは発達障害のお子さんが運動会(練習含む)に参加して、楽しめるようにするための方法をいくつか挙げていきます。
1:「1日の流れ」を書いた紙を渡す
運動会の練習がある日も当てはまりますが、特に運動会当日は「何があるかわからない」という心境になりパニック状態になる子も少なくありません(発達障害のお子さんは見通しの立ちにくいことを苦手としている傾向にあります)。
そのため「運動会当日の1日の流れ」を書いた紙をお子さんに渡すことをおすすめします。書くときのポイントは以下の通りです。
- 家で朝起きてから、帰宅するまですべての流れを書く
- できるだけ細かく書く
- イラストや写真を多めに使ってイメージしやすくする(文字だけではイメージしにくいです)
大変だと思いますが、1年に一度のことですからお子さんのためにもしっかり作りたいところです。
また、書き終えたらお子さんと一緒にチェックしつつ、わからないことや心配なことを挙げさせて丁寧に答えていきましょう。そうしてできる限り不安を潰していきます。
「運動会の練習がある日」についても同様に書くといいですが、これについては「練習の前後にどう行動するか」を書くだけでいいでしょう。それ以外の部分は普段と一緒だからです。
2:「1日の流れ」にプラスしてポイントを書く
あえて分けて紹介しますが「1」で挙げた「1日の流れ」にプラスして、以下のことも書く・意識することをおすすめします。
- 運動会当日、家族はどこから見るのか→親がどこにいるかわかると不安が和らぐ
- お弁当はどこで食べるか→「食事はできるのか、どこでするのか」に不安を抱える子は多い
- 参加する競技名を書く→「競技に参加」などと書いてもイメージしにくいため、「50メートルかけっこに参加」など具体的な競技名を書く(できれば写真やイラストも添える)。
- トイレチャンス→「10~20分以上の猶予があるタイミング」にはすべて「ここでトイレに行けるよ!」などと書いておくといいでしょう。「いつトイレに行けるか」という不安を抱えている子も少なくありません。
他にも気付いたことがあれば書き込みましょう。
なおトイレについては、「どうしても行きたくなったいつでも先生に言うんだよ。そうすればトイレに行けるからね。先生も怒らないよ」とお子さんに伝えておくことも大事です。そうでないと「行っても構わないことは理解しているが、どうすれば行けるのかわからない」という状態になりかねません。
3:負けたときにどう対応すればいいかを書いておく
負けず嫌いであり、負けたことを受け入れにくい子の中には、「勝ったときのことしか考えておらず、負けたときにどう対応していいかわからずパニックになる」という人も少なくありません(発達障害の場合は特に)。
そのため
- 一番以外の人は旗の後ろで座っていれば大丈夫だよ
- もし負けたら、席に戻ってみんなと一緒にお友達を応援しよう!
- 転んでも、次の人にバトンを渡せれば大丈夫だよ
などと伝えておくことをおすすめします。こうすることで「負けてからのこと」にも見通しがつくため安心しやすいです。また、負けた後のこともイメージできるため、「自分も負けることはあるんだ」という心構えができるかもしれません。
発達障害のお子さんに多い、負けず嫌いという特性は、モチベーションの高さと、「自分はできるはず」というセルフイメージの良さの表れでもあり、悪いことではありません。親や先生がサポートをすることや、お子さん自身が運動会などで経験を積むことで、「日常生活に困らない負けず嫌い」になることができれば最高です。
4:(練習期間中は)家でしっかり休ませる
最初にお伝えしたさまざまな原因により、練習期間中はヘトヘトになって帰宅する場合が多いですから、いつも以上に家でしっかり休ませるようにしましょう。少しくらい日課(家の手伝いなど)ができなくても多めに見たり、早めに寝るように促したりすることが大事です。
また、「何かできたらご褒美」という習慣のある家庭も多いと思いますが、普段よりご褒美を出すハードルを下げたり、ご褒美を多少豪華にしたりするのもいいでしょう。
たとえ1年生であっても、運動会シーズンまで生活していく中で「こうすれば心身が休まる」ということはわかってきていると思いますので、親がサポートしてあげることが大事です。
5:本当に嫌な競技には参加しなくて済むように、親と先生が相談しておく
発達障害のお子さんが心底嫌がっている競技に無理矢理参加させると、パニック状態になって他のクラスメイトにも迷惑がかかるかもしれません。そのため本当に嫌な競技には参加しなくて済むように、事前に親と先生が相談しておくことをおすすめします。
また、「嫌だけれどどうすれば参加せずに済むのかわからない」という状態に陥りパニックになる可能性もあります。そのため、先ほど紹介した「1日の流れを書いた紙」などに、「どうしても参加したくないときは先生に言おう!」などと書いておくといいでしょう。
ただ、学校側が「特別扱いはできない」「多少トラブルが起きても参加させることに意義がある」と考えている場合もあります。それに対してどこまで食い下がるかは親の方針によりますが、「温室育ちにし過ぎるのも良くない」という考えもありますし、とにかく慎重に協議することが大事です。
まとめ
ここまで発達障害のお子さんが運動会に楽しく参加できるようにするためのポイントについて解説しました。発達障害の方にとって運動会はハードルの高いイベントになりがちですが、今回紹介したような工夫をすることで参加しやすくなります。
また、運動会中や練習中にできる限りトラブルを起きないようにする(起きたら対処できるようにする)ためにも、一度担任の先生と運動会に関して相談しておくことをおすすめします。