発達障害のお子さんが「読み書きで苦労する」時の対処
株式会社フロンティアコンサルティング 代表取締役
上岡 正明 (かみおか まさあき)
大学院にてMBA(情報工学博士前期課程)取得。専門分野は社会心理、小児心理。多摩大学、成蹊大学、帝塚山大学で客員講師等を歴任。子どもの脳の発育と行動心理に基づく研究セミナーは常に人気を博している。著者に『死ぬほど読めて忘れない高速読書』(アスコム)、『脳科学者が教える コスパ最強! 勉強法』(ぶんか社)、などベストセラー多数。中国や台湾、韓国でも翻訳され累計85万部となっている。 Twitterフォロアー5万人、YouTubeチャンネル登録者23万人を超える教育系ユーチューバーでもある。
> 監修者の詳細はこちらこの記事では発達障害のお子さんにも多い「読み書きの苦労」について解説します。
お子さんについて「他の分野の成長に比べて、読み書きの成長が遅い」「読み書きで苦労しているようだから何とかしてあげたい」と悩んでいる親は少なくないと思います。
そこで本記事では発達障害の方にも多い「読み書きの苦労」の特徴、原因、対処方法などについてお伝えしていきますので、ぜひ参考にしてください。
ここでいう「読み書きの苦労」とは?
本記事では、文字や文章の読み書きに大きな困難が生じている状態のことを「読み書きに苦労している」と表現しています。
特に「他の科目にこれといった問題はないのに、読み書きだけでは苦手」というケースが当てはまります。この場合、単に字を繰り返し書くトレーニングなどをしても効果が出にくいですから工夫してサポートすることが大事です。
なお、読み書きに苦労している状態のことをディスグラフィア(書字障害)・ディスクレシア(読字障害)などと呼びますが、どちらも医学用語ではなく明確な定義があるわけではありません。
そして「ディスグラフィア・ディスクレシアなのか」にこだわるよりも、「読み書きについて苦労しているのであれば寄り添ってサポートする」という意識を持つことが重要といえます。
発達障害のお子さんにも多い「読み書きの苦労」の主な特徴4つ
まずは発達障害のお子さんにも多い「読み書きの苦労」の主な特徴を挙げていきます。これらの特徴が複数現れることもあれば、一つが突出して現れるケースもあります。
1:似ている文字の書き分けが難しい
「さ」と「き」、「お」と「よ」など見た目が似ている文字を書き分けることが苦手である場合があります。「2」と「S」など、アラビア数字とアルファベットという風に種類が違っても間違える人は少なくありません。
また、文字が鏡文字になってしまう人もいますし、「とめ」「はね」「はらい」などを認識しにくい人も少なくありません。
2:小さい「っ」や「ゃ」などの扱いが苦手
小さい「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」の扱いが苦手で、「かけっこ」を「かけこ」、「きゅうきゅうしゃ」を「きうきうしぁ」などを書いてしまう人もいます。
3:「発音」と「書く字」が違うと正しく表現できない
普通は「こくおお」と発音しますが、書く場合は「こくおう」と表記します。しかし、このように「発音」と「書く字」が違う場合に、正しく書くことができない人もいます。
4:漢字の意味を理解しにくい
本来「歌手」と書くべきところを、「可種」などと同じ読みをする漢字を当てはめて書いてしまうことがあります。
発達障害のお子さんにも少なくない「読み書きの苦労」の主な原因4つ
続いて発達障害の方にも少なくない「読み書きの苦労」の主な原因を紹介します。
1:注意力が低い
特に発達障害の場合、注意力が低い傾向にあり、「文字の細部を認識する」「文字を見落とさないようにする」ということを苦手とするケースが少なくありません。
それによって先ほど挙げたような書き間違えをしてしまうことがあります。
2:感覚器官同士の連携がうまくいっていない
耳で聞いた音を書く、目で見た字を書き写すなど、「複数の感覚器官を連携させる動作」を苦手としている人もいます。
該当する場合は周囲から「非常に不器用な人」と思われる傾向にあり、ボタンをとめる、スキップするなどの動作にもぎこちなさが出ることがあります。
3:聞こえた音の処理が苦手
例えば「牛が~」という話題が出ても、それらの音が「牛」を示していると判断できず、音を文字として書けない、書くことが難しい場合があります。
4:視覚過敏
視覚が敏感すぎて、文字を見たり文章を読んだりすることが難しく、文字の形を認識しにくい人もいます。「簡単な文字も読めない」という場合、この原因で読み書きに苦労が生じている可能性があります。
発達障害のお子さんの読み書きをサポートするためのポイント4つ
続いて読み書きに苦労しているお子さんをサポートするためのコツをいくつか挙げていきます。
書くこと・読むことに全く問題を感じていない方の場合は、お子さんの読み書きの苦労について理解することが難しいかもしれませんが、まずは寄り添うことが大事です。
1:書けない・読めないことを決して責めない(読めたら・書けたら褒める)
もちろんわざと歪んだ字や間違った字を書いているわけではありません。それにもかかわらず周囲の無理解によって「字が汚い」「漢字が書けない」「ふざけている」などと誤解されることが少なくありません。
学校など頻繁に読み書きをする場で、自分の字を否定されると、文字を書くことそのものに恐怖心を抱いてしまってもおかしくありません。そうなると文字を書くトレーニングをすることも嫌がる可能性があります。
特に発達障害のお子さんの場合、読み書き以外の部分でも周囲に否定されることが少なくないのが現実です。その上で読み書きのことまで責められてしまえば、学校に行き渋るようになる恐れさえあります。
ですからお子さんが読み書きで間違えたり問題があったりしても、決して責めないようにしましょう。それよりも「書けたら・読めたらその部分を褒める」というスタンスでいることが大事です。褒められれば自信がつきますから、読み書きに対するモチベーションを保ちやすくなります。
また、「読み書きの練習をしていることそのもの」を褒めることも重要です。さらに「優しい雰囲気の字だから好きだなあ」「カッコイイ字だね!」などと、「字の在り方」について褒めるのもいいでしょう。
2:学校の先生にも配慮を求める
子どもに「書くこと」を習得させることは教師にとって非常に重要なことですから、書き間違いがあれば丁寧に修正してもらえることでしょう。
ただ、特に読み書きに苦労している場合、「どこが間違っているのかわからない。それなのに赤ペンで真っ赤になっている」という感覚に陥り、パニック状態になる恐れがあります。
そのため学校の先生と相談して、できる限り「間違いがあっても修正しない&褒めるべきところだけ褒める」という方針を採ってもらうことをおすすめします。
例えば「ここをきちんとはねられていますね!」と書けば、他の字を書くときも「はねるところはどこか」という意識がうまれやすくなります。「この字は特にバランスがいいです!」と書けば、他の字のバランスについても意識するようになるでしょう。
3:専門家とも相談して「読み書きの苦労」の原因を明確にする
先ほどもお伝えした通り、字が書きにくい・読みにくい理由にもいろいろありますから、できれば専門家とも相談してディスグラフィア・ディスクレシアになっている理由をはっきりさせることをおすすめします。
例えば「感覚器官同士の連携がうまくいっていない」のであれば、文字を書くトレーニングだけでなく、全身を動かす練習も行うことで、文字を書く動作も上手になりやすいです。「聞こえた音の処理が苦手」なのであれば、言語聴覚士にもサポートしてもらいつつ読み書きのトレーニングをするといいでしょう。
学校の先生にここまでの配慮を求めるのは難しいですから、
- 学校には褒めてもらう
- 親は褒めつつお子さんを専門家とつなぐ
- 専門家には専門的なトレーニングをしてもらう
と分けて考えることをおすすめします。
まとめ
ここまで発達障害のお子さんにも多い読み書きの苦労について解説しました。最も重要なのは、お子さんが字を上手に書けない・読めないことを決して責めないということです。本人も頑張って読み書きしているのですから責められる理由がありませんし、責められ続ける読み書き自体を嫌がるようになる恐れがあります。
学校にも配慮を求めつつできる限りお子さんの読み書きを褒め、可能であれば専門家のサポートを受けつつ読み書きのサポートをしていくことをおすすめします。